ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

いっしょに棲もう

「同棲」「愛の巣」の「棲」や「巣」のあたりに、どうぶつじみたものを感じます。どこかみっともなくてかわいいやつらです。ちいさなものたちが、なまなましく、懸命に息をつくさまをとらえた語であるように思われます。ただし、答え合わせをしてみないから…

あたためますか?

おかずしかり、こころしかり、ゆっくりあたためたものほど冷めにくいと決まっています。これは起伏に乏しいわが人生から導いた経験則です。電子レンジから取り出したおみそしるには、すぐに部屋のさびしい温度がうつってしまいます。「冷めないうちにどうぞ…

下の名前で呼んで

面接で「貴校」という呼称を用いないようにと、最近は教わるのだそうです。「ちゃんと学校の名前呼んでほしいみたいですよ」と受験生が教えてくれました。「呼んでほしいみたい」という言い回しがくすぐったく気に入っています。 志望校の名を一度も口にしな…

自分探さない

自分の書いたものが他人のことばのように受け止められるのというのはありふれた現象だけれど、それにしてもこれには驚かされた、と拾い上げた紙きれの文字をしみじみ読み直してから、住所の印刷されたダイレクトメールより入念にちぎって捨てました。「私は…

続・夏休みの宿題

寝坊して急いで来たのがばれないように、息を整えて教室に入り、ドアがまた開かれるのを待つも、先生がお見えになりません。今週の研究班は、急遽お休みになったのでした。手帳に書かれていないことが起こるのは、このくらいなら歓迎します。雨に降られたり…

ジェーンより怖いのは

漱石をして「その薄命と無残の最後に同情の涙を濺がぬ者はあるまい」と書かしめた九日間の女王を見に、上野の美術館へ行きました。その日もやはり濡れた傘を携えていました。私が人に会うと雨が降るようです。 目当ての展示品たちは常に分厚い人混みを隔てた…

水底から

仲間からひとり遊離したものを浮いていると形容するのは、巧みではありながら万能ではありません。ひっそりと沈むやつがここにいます。 自分の声は沈殿していると、女の子と話していて感じることがあります。透きとおっていたり、不機嫌だったり、熱っぽかっ…

スマートであれ

あらゆるしぐさにそれぞれのもつ美しさを見出せたらよいけれど、スマートフォンを操作する人の姿には、魅力を感じたことが残念ながらありません。うつむく、指をすべらせる、まばたきを忘れる、ひとつずつの所作を取り出してみればささやかなものであるのに…

続・子といふもの

前回の記事にこっそりお返事をいただいたことが嬉しくて、だれにというわけではないけれど、続きを書きます。あったかいなと思いながらすべて読みました。結びの一文が気に入ったという声もありました。あれは、書かずにはいられないくせに、どこかでふざけ…

子といふもの

子どもがほしいと思ったことがない、と話すと高確率で返ってくる「なんで?」に、ほしいほうが標準の規格なのだなと確かめさせられます。孫がどうとか軽口を叩く父と、それはセクハラだよとたしなめる母とを見ていると、すまなくてなにも言えなくなってきま…

知らないくせに

ろくに知りもしない女によく熱を上げられるな、とおのれを冷ややかに眺めたのち、よく知らないから手放しで礼讃するのだと気づき、気づいてもなお私は壇蜜が大好きなのでした。ただ壇蜜が好きなのであって、齋藤支靜加さんを愛してはいないのです。フリーに…

寸止め

花粉症がひどく、ポケットティッシュが1日に1パックずつなくなります。どういうわけかくしゃみは出ません。出そうになって、不発に終わることがしょっちゅうです。眠るときのほかは絶えずむずむずしています。間抜けにゆがんだ顔をマスクの下に隠しながら…

ああもう、愛してるよ

もういちど仲のよい夫婦に戻りたいのなら、「疲れた」のかわりに「愛してる」と言おう、といつかのバラエティ番組が教えてくれました。当時、小学生か中学生だった私はそのめちゃくちゃなアドバイスに衝撃を受け、疲れたと口にしないことをおのれに誓いまし…

アドラー先生のこと

「超訳こども」と書かれた表紙につられて、アドラーのことばを少しだけ読みました。おとなには刺激が強すぎるように感じたのですが、こどもの胸にあれはすとんと落ちるのでしょうか。だいたいそのとおりだろうな、とは思いながら、じゃあやってみよう、には…

守ってあげたい

歩行中の男女と、自転車に乗ってすれ違うとき、つい男性のほうに目が行ってしまいます。夜道にて、徐行して頭を下げつつ、「ちゃんと彼女を守るんだろうな」とおにいさんを観察する自分に気づきました。性役割を拒むくせに他方とらわれてもいるのだと、すこ…

きゅっ

「真顔が笑顔の人っていいよね」と妹が言っていました。辞書の「逆説」という項目に、例文として載っていてもよさそうな至言です。なにを考えているわけでもない、だれに向けているわけでもない、ふだんの顔がかすかに笑っている人のことをさすのでしょう。…

君のかたちに

お金がないのに服を見て回りました。つぎのお給料日までセルフおあずけ状態です。最近の流行りなのか、どこの店でもエド・シーランのShape of Youが流れています。たしかにあの詞は、身体にぴったりくっついてくる洋服との親和性が高そうです。その姿に惚れ…

ご主人様とお呼び

「どうも、こんにちは、石油王。」とSiriから応答がありました。自分で設定しないかぎり、こうは呼ばれないはずです。けれど「私のことは石油王と呼んで」とスマートフォンに向かってひとり話しかけた記憶は、都合よく欠落しています。 石油王と呼ばれてもと…

せぷてんばぁ

寒いのは、さびしいのといまいち区別がつきにくく、一昨日の帰り道はひどくさびしかったです。布団にもぐったら、なんの屈託もなく数分以内に寝ついていたので、やはりただ寒かったのでしょう。けれど、あとでわかったところで、あまり役には立ちません。さ…

さらっと弾くな

ピアノは奥深い楽器です。演奏から、身体と心の状態が透けて見えます。いいときとだめなときは交互にかつ露骨にきて、なんとなく乗れない日というのがどうしてもあるのです。 手抜きも隠し立てもなしだと心がけて弾いているつもりだけれど、もっと感情を表せ…

背伸び

昨日からなんとなくだるくて、アルバイトをする以外はずっと家にいました。ここのところ、ロイヤルホストと寿司屋を一日のうちに訪れたり、オセアニアスタイルのカフェで夕食にしたり、身の丈に合わないものを口にしていたせいかもしれません。未知の食材を…

Hey Siri

スマートフォンの電源が突然落ちます。電池残量が1%と表示されるところは、めったに見られません。残り一桁まで減ってしまえば覚悟できるのですが、ひどいときは13%くらいで画面が真っ暗になって、そのままこときれています。出先で乗換案内を調べている…

新宿はポール日和

昼寝から覚めると19時になっているのにがっかりしてふて寝をする夢から覚めると、まだぎりぎり夕方でした。必死さが伝わらないと家族が見たら言ったであろう速度で、私なりに急いで支度をして出かけ、閉店間際の伊勢丹に着きました。 本店に足を踏み入れるの…

マンネリズム

「いままでずっとこうしてきたから」ということだけを理由にして続けてきたものに、ふと疑問を抱くと、とたんにそれが無駄か苦痛であるように思われてきます。これまでに、発作的に200冊の漫画を売ったり、スポーツジムを退会したりしたのも、この精神の作用…

なにもしない

花火の打ち上がる20分間を待って、地べたに2時間、ぼうっと座っていました。マニキュアを乾かす数分間には耐えられないのに、なぜか平気でなにもせずにいました。狭い部屋でなかったおかげというのもありそうです。だから、ビーチでマニキュアを塗ったら、…

夏休みの宿題

小学生から高校生までがみんな学校に通い始めても、夏が終わっても、わが夏休みは続いてゆきます。私はいま、いわゆる人生の夏休みの夏休みにいるのです。勉強や旅行ができるのは大学生のうちだけでもないと、最も身近な人生の先輩たる両親が身をもって示し…

おいしいね

少し前に、両親が銀婚式を迎えました。高額な品物は受け取ってくれない控えめなふたりに、さりげないプレゼントにちょうどよいものを探しに行ったところ、駅ビルも百貨店も臨時休業日らしく閉まっています。あてもなく歩きながら、コーヒーメーカーを買って…

男だったら付き合いたい

恋バナなるものについていけない、成長の遅い中学生でした。反応にかわいげがないから、私をからかってくれる子はひとりもいませんでした。ちょっかいをかけられたくて「好きな人いるかも」と嘘をついてみたところ、だれだとお調子者がしつこく尋ねてくれた…

ぬくぬく

軽音楽部に所属してバンドを組んでいた3年間、歌詞を書くのは私の役目でした。いとしくなるほどへたくそな詞を書いていました。思春期につきもののかたくなさと自意識過剰と、根拠のない自信と不安とをもって発せられることばには、めちゃくちゃなのに迫り…

ホテルパシフィック

読めないくせに地図を眺めるのが好きで、昨夜は海沿いの道を西から東に指で追っていました。私の住む県はおもに、昼間は東京に出ていた人が帰ってきてまた出ていくための場所で、出かけ先にわざわざ選ばれるような人気者ではありません。湘南と呼ばれるあた…