ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

一心に味わえ

 仮に、タグをつけたまま裏返してTシャツを着ていたとしても、両方の鼻の穴から鼻毛が出ていたとしても、愛しい人のその姿はきっと愛しいことでしょう。けれど、イヤホンをつけたまま牛丼を食べるところを見たら、百年の恋も一時に冷めるだろう、と向かいのカウンターの知らないおにいさんを見て思いました。

 礼節を重んじて言うのではなく、ただ見かけが気持ち悪いのです。スマートフォンを操作しながらパスタを食べるおねえさんを見るのもだめです。頭部に開いた穴から細長いものが垂れ下がっているという外観が、イヤホン牛丼とスマホパスタに相通ずる特徴でしょうか。垂れているのに上の空というところに、なんとなくぞわっとするのかもしれません。

 いつも時間に追われているのか、たえず手頃な刺激をほしがっているのか、われわれは、よそ見をしながらなにかをしがちです。「美人にキスしながら安全運転ができる人間は、キスに十分集中していない」という物理学者のことばを思い出します。なにをするにも、たとえば牛丼を食べるにも、一途に、美人にキスするごとくめいっぱい感じたいものです。