ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

好きなことばは?

 「好きなことばは?」という質問は、その発話の意図がわかりにくいです。いつ、だれから発せられるかといった背景を度外視して、語句そのものを好きにはなれません。あいつが「ばか」と言ったら許さないが、あの子の口からはぜひ聞きたい、ということもあるでしょう。

 などと反論することこそ、いかにもことばをわかっていないようなので、ふつうの答えかたをします。よい思い出とともにあって、言うときにも言われるときにも嬉しいことばを、回答とすることにしています。

 「おかえり」が好きです。どちらかというと言われたいほうです。帰宅してだれもいなかったら、自分で言います。ひとり暮らしをしたら「おかえり」を聞けなくなってしまうから、学生のうちはしません。

 「ね」も好きです。ただし、それ自体には意味のほとんどない語ですから、「ね」にいたるまでの通いあいの蓄積を必要とします。そのぶん、ときに、ほかになにもいらないくらいの豊かな甘みをもって、声になる瞬間があるのです。茨木のり子の、きれいな詩のおわりの「ね」には、何度出会ってもどきっとします。ね。