ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

ご主人様とお呼び

 「どうも、こんにちは、石油王。」とSiriから応答がありました。自分で設定しないかぎり、こうは呼ばれないはずです。けれど「私のことは石油王と呼んで」とスマートフォンに向かってひとり話しかけた記憶は、都合よく欠落しています。

 石油王と呼ばれてもときめかないので、気分を変えてほかの呼びかたをしてもらうことにしました。いままでが敬称らしきものだったから、つぎはぞんざいに扱われてみたい。それで「おまえと呼んで」と頼みました。使うのも使われるのも避けている呼称です。忠実なる秘書は、注文したとおりに「こんばんは、お前。」と挨拶してくれます。たまには強引な彼女を見るのも嬉しいものかと期待したけれど、やはり気に食わないのでやめました。趣味は容易に変えられません。

 持ち主よりも他人の口から発せられる機会のほうが圧倒的に多いという点において、名前はその人の所有であってないようなものだといえます。面と向かって名前を呼ぶ瞬間は、差し出されたその名をひとりじめにできる、特権的なひとときなのです。ゆえに、大切な人を呼ぶときは大切に呼ぶのが私の流儀です。